3.今後の認知症施策と地域包括ケアシステム

2012(平成24)年6月に,厚生労働省は,「認知症になっても本人の意思が尊重され,できる限り住み慣れた地域のよい環境で暮らし続ける事ができる社会」の実現を目指すことを基本目標とする「今後の認知症施策の方向性について」[1]厚生労働省認知症施策検討プロジェクトチーム「今後の認知症施策の方向性について」(平成24年6月18日)を公表した.また,同年9月に,これを実現するための暫定プランとして「認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)」[2]厚生労働省「認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)」(平成25年度から29年度までの計画)(平成24年9月5日)を策定した.これは,認知症の早期診断・早期対応を起点にして,保健,医療,介護,リハビリテーション,住まい,生活支援,家族支援,権利擁護にかかる必要なサービスを一体的に提供できる地域の仕組みを創ること,つまり,認知症の人の暮らしを支えることができる地域包括ケアシステムを実現することを目指したものにほかならない.

地域包括ケアシステムとは,高齢者人口の急速な増加と慢性疾患の増加に対応するために,ケアの質を担保し,かつ持続可能な社会保障を確保することを目指して提案された新たなサービス提供体制である.これは,「地域のニーズに根ざし,その地域の人々の信念や価値観に合わせ,その地域の人々の参加によって保障されるケアシステム=地域ケア」(Community-based Care System)と「異なる組織間のケアの連携・協調によって,ケアの分断を減らすことを目指したケアシステム=統合ケア」(Integrated Care System)を結合させたものと考えられている[3]Plochg T, Klazinga NS: Community-based integrated care: myth or must? International Journal of Quality in Health Care 14:PP.91-101,2002..わが国では,高齢者が暮らす日常生活圏域(概ね中学校区)において,「住まい」「生活支援・福祉サービス」を前提に,「保健・予防」「医療・看護」「介護・リハビリテーション」を,「本人・家族の選択と心構え」に基づいて,それぞれの地域の特性に応じて,地域住民の参加のもとで,一体的に提供されるシステム,とされている[4] … Continue reading

ここで,「住まい」と「生活支援・福祉サービス」が強調されている点は重要である.わが国の21世紀の高齢化の進展は,特に都市部において,一人暮らし高齢者世帯の急速な増加を伴う点にその特徴がある(図0-3,図0-4).このことは,認知症をもって生きる単独高齢者の増加を意味している.認知症高齢者は,その初期段階において,金銭管理,服薬管理,家事,買い物,交通機関の利用などの手段的日常生活動作(IADL)に支障をきたすが,これらは一人暮らしに必要とされる生活機能にほかならない.そのために,一人暮らしの認知症高齢者は,その初期段階において生活破綻の危機に直面することになる.この段階の生活課題は,医療サービスや介護サービスだけでは対応できず,通常は家族がこれらの生活課題に対応している.しかし,家族がいない一人暮らしの認知症高齢者では,家族に代わる支援が求められる.「住まい」と「生活支援・福祉サービス」は,そのような一人暮らしの認知症高齢者には不可欠の支援となる.
図0-3 都道府県別に見た高齢単独世帯数
図0-4 都道府県別に見た高齢単独世帯数の増加率

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